どの水準で逃げますか? [放射能]
柏市が週刊紙を賑わした一週間ですが、週刊G誌は「柏から避難すべき」のスタンスで記事が書かれているようです。
他にも 疎開推奨の記述を あちらこちらで見かけて 精神衛生上 実によろしくない状態です。
何処までなったら避難するのか?
何処までだったら留まるのか?
あまりハッキリ書かれているのを見たことがありません。
本来なら 外部被曝だけで論じても仕方がないし 事故直後の被曝量の方が大問題なんですが、この6月に避難するべきかということだけを考えてみたいと思います。
1、この水準なら逃げない
まず 最初に出てくる安全側の目安が 非常に有名になった「年1mSv以下」
これは平常時の基準ですが、緊急事態の今でも守れるなら守りたいところ。
このくらいの数字だったら 避難の必要がないと分かります。
週刊G誌で某教授が「0.16μSv以上は危険」と書いていますが、これは「年1mSv」から来た発言でしょう。
自然放射線を0.05μSvとすると、福島事故由来の線量が0.11μSv/hになって 24時間外にいても「年間1mSv」以下になります。
確かに守れれば嬉しい水準ですが、守れるのは神奈川以西か 岩手県以北まで行かないとダメでしょう。
東葛地区だと まあ 当面は絶望的な数値です。
ただ、某先生は24時間屋外にいる条件で数字を出していますが、屋内にいる時間も計算に入れると もう少し上の数字でも大丈夫。
これまでのように 1日「8時間屋外・16時間木造住宅屋内」で過ごす条件だと「0.21μSv」程度までセーフになります。
これだと 都内西側・千葉でも房総方面・茨城県なら中央部で 結構な場所が大丈夫になる計算です。
次に 安全寄りの指標が「5年間で年平均1mSv以下」というやつです。
これはICRPの2007年勧告で 公衆被曝の限度量の後ろの方に括弧付きで「特別な状況のみ1mSvを超えることも許容されるが、5年平均で1mSvを超えない」と書かれている基準です。
どうしようもない事情なら「数年は1mSvを越えても仕方がないね。だけど 5年間で5mSvは守ろうね。」という雰囲気でしょうか。
「特別な状況」の解釈は難しいのですが、他の条文とあわせて読むと「被曝低減対策が完全に崩壊してしまった緊急時」とまではいえない程度の事故を想定している感じです。
この基準だと 今現在の空間線量率で「0.25μSv/h」くらいまでがセーフになります。
北関東でも かなりの部分が この範囲に収まるのではないでしょうか。
残念ながら 柏や松戸は 大部分がオーバーしてますけどね。
ここまでが、平常時の基準で考えられる範疇といえるでしょう。
もちろん、外部被曝だけ考えていても仕方がありませんので、これから先の話なら 再浮遊粉塵の吸引などで1割程度低めの数字を見ておけば まあ大丈夫でしょうか。
2、「年1mSv」の意味は
安全側の目安として有名になった「年1mSv」
でも、よくよく読んでも この数字でさえ 「安全」とは書いてありません。
ICRPが「閾値なし」を前提にしている以上 当たり前なんですけどね。
代わりになんて書いてあるかというと、「被ばくした個人に直接的な利益はないが、社会にとって利益があるかもしれない状況」とのことです。
意訳すると 「被曝する人に利益はなくても 社会にとって有益なら 勝手に被曝させても良い線量」くらいのニュアンスでしょうか。
100mSv以下なら証拠はないし、更に低くて微量だから「巻き散らかしても我慢してね」というのは ちょっとあんまりです
また別の解釈では、「年1mSvずつ被爆していっても 寿命の中では(ICRPが有意差を認める)累積被曝が100mSvいかないよね」ということらしい。
生涯累積100mSvまで 本当に有意差無しなのかは 極めて怪しいのですが、累積が大きくなる頃には 普通に死ねる歳なワケで因果関係が分からないでしょうとも裏読みできます。
LNT仮説を採用するなら どんなに低い線量であれ「無意味な被曝は避けるべき」という結論しか出てこないでしょう。
3、この水準なら逃げる
逆に どの位なら 逃げるべきでしょうか。
まず、最後の砦といえるのが「年100mSv」
ICRPでさえ「これより高い線量では 確定的影響が増加し、発ガンのリスクが増す」としています。
避難が可能な状態であれば、この線量の地域に留まることはありえません。
空間線量率では「二桁μSv」の地域がこれにあたります。
この下の「年20mSv~年100mSv」は「被曝低減対策が崩壊した場合に適応」されると書かれています。
今のような緊急事態では この範囲から目安線量を決めて 対策をとることとされています。
日本政府は この中から一番低い「年20mSv」を採用したわけですが、安全な線量として選ばれたわけではありません。
とりあえず、「年20mSv」を越えそうな地域なら やはり引越しをえらぶでしょうか。
現在の空間線量率だと 屋内生活を考慮すると「3.4μSv/h」を越える状態だと一家脱出を考えます。
というワケで、私なら…
・ 0.25μSv/hくらいまでは逃げない。
・ 3.4μSv/h以上なら逃げる。
粉塵などの内部被曝の余裕を見るなら もう少し低い水準でも 疎開でしょうか
ただ、どちらにしても その間には 広い広いグレーゾーンが広がっています。
安心できないし、危険だとも確信できない。
どっちつかずの地域です。
この 年1mSvから年20mSvの間の線量について ICRPは「個人が直接利益を受ける状況に適応される」と書いています。
「リスクと住み続けるメリットを比べて 各自の判断でどうぞ」ということでしょうか。
とはいえ どのくらいのリスクか分からないと対応の仕方がありません。
政府も「リスクがあるよ」とは言わないし(言えないのか?無リスクと信じているのか?分からないけど)、学者先生も判断基準を出しません。
悪いことに 東葛の大部分は この嫌な状態に嵌ってしまっています。
次回は ちょっと悲観的に グレーゾーンのリスクを考えてみたいと思います。
2011-06-24 12:51
nice!(0)
コメント(8)
トラックバック(0)
こんばんは!
昨日もどこかのテレビ局が柏の線量を測りに来ていましたね。その前は日テレワイドショーの取材陣も来て、柏西口でガイガー片手にレポートしてました。
なんだか柏ばかり取り上げられていますね(´Д` )気のせいか…?
ちなみに日テレワイドショーの専門家さんは「避難の必要なし、ただ、手洗いうがいをして、風の強い日はマスクをしましょう」と、仰ってました。
by 蕁麻疹 (2011-06-24 22:24)
蕁麻疹さん、こんばんは。
柏、松戸や流山に比べても 格段に注目度が高いですね。
これだけ騒がれたんだから 腰の重い柏市も 何か積極的に動いてくれない物ですかねえ。
「避難の必要がない」ってのは 多分 一般的な見解なんでしょうけど、住んでる人間からすれば 気が気でありません。
どういう理由で「避難する必要がない」まで言ってくれると、その是非が判断できるんですけど。
by ゆでがえる (2011-06-24 22:34)
はじめまして。
分かりやすく、大変参考になりました。
こんな感じでメディアもいってくれたら分かり安んですけどね。
この頃、傾向として現在の測定値から
年間を算出して、どうのこうのとの報道がですよね。
3月、4月は線量が高かったと思いますが.....。
それを考慮しても数値的にはあまりかわらないんでしょうか?
何か腑に落ちなくて....。
この辺の考え方も、載せていただけないでしょうか?
「グレーゾーンのリスク」も楽しみにしています。
by 水玉 (2011-06-24 23:14)
水玉さま、はじめまして
3月、4月の問題は まだよく計算していませんが 参考になる資料が日本分析センターから出ています。
http://www.jcac.or.jp/lib/senryo_lib/hyouka.pdf
外部被曝の3月から2ヶ月分の計算が出ていて、千葉で236μSvとなっています。
柏の線量が千葉の約3から4倍と考えると、708~944μSvが最悪の2ヶ月の外部被曝と見込みます。
これは屋外での数字ですから 必要であれば 屋内の滞在時間と低減率を掛けて補正すると良いと思います。
木造住宅だと外の大体半分で一日8時間屋外にいる条件だと470~630μSvで、今年3月から来年3月15日までだと 大雑把に2600μSvの外部被曝を見込んでいます。
24時間 全部 屋外にいる条件だと4000μSvになりますが、これは過剰な数字と考えます。
グレーゾーンの件、簡単に考えていたのですが 中々自分でも消化できず 苦闘中です。
本当に何か書けるかも まだちょっと自信がありません。
by ゆでがえる (2011-06-24 23:40)
はじめまして。
柏に一戸建てを新築中の3ヶ月乳児と3歳児の母です。
楽しみだった引越が不安になってしまいました(涙)
家を見に行くと、周りでは子供達が普通に遊んでいるし、大丈夫なのかなと思うけど、週刊誌や報道を目にしてしまうと凹んでしまいます。
騒ぎすぎなのでしょうか、精神的によろしくない。やめて欲しいです(涙)
グレーゾーンの件ですが、世界中には柏よりも線量が高い場所がたくさんあるようですね。
アメリカは平均的に高いと聞きました。
デンバーなんかはかなり高いようですが、
安心しようと本当なのか情報を集めたいのですが、英語を理解するのが難しくて…
ホント安心して引越したいです(涙)
by ぽこ (2011-06-25 08:15)
ぽこさま、はじめまして。
私も大丈夫だろうと思いつつ、引越ししたくなる毎日ですよ。
自分はどうなってもよいんですが 子供は心配ですよね。
線量が高い地区は日本でもあって その当たりの事情は水琴さんがブログに書かれています。
http://yawa.blog.so-net.ne.jp/2011-04-10
デンバーだと ラドン被曝込みで5mSv/年くらいだと言われています。
日本でもラドン温泉などでは3mSv/年程度はあります。
高線量地域は詳しく疫学調査がなされていて、健康に有意な悪影響は出ていません。
自然放射線で5mSvに届く場所だと比較的数があるので 少しだけ安心できる印象。
これが10mSvの水準だと有意差無しでも地域の数が限られるので ちょっと不安が増す印象でしょうか。
年20mSvは自然ではない数字になります。短期間で有害な証拠はありませんが、生涯累積100mSvにも早く手が届きそうでかなり気持ちが悪い感じがします。
もちろん、高線量地域での調査では 住民で放射線に弱い人が淘汰されたのだろうとか、様々な反論は可能ですが 一つの基準ではあるはずです。
各国の自然放射線事情は下の記事などを参考にしてみてください。
http://www.atomin.go.jp/reference/radiation/familiarity/index03.html
by ゆでがえる (2011-06-25 09:32)
ゆでがえるさま
返信コメントありがとうございます。
世界中には柏近辺と同じかそれ以上の線量の地域は多数ありそうですね。
参考URL見ましたが…携帯からなのではっきり分かりませんでしたが少し安心しました。故障中のPCがなおったらよーく読みます。
大都市デンバーでは街全体が空間線量が年間5ミリシーベルトなのでしょうか?それともラドンの内部被爆も含めて?またはある一定の高い線量があるところにいた場合で街自体はそんなに高くないのでしょうか?
柏市でも線量が高い地域のマンションから、同地区の一戸建てに引越なんです…
今日は近くの公園に久しぶりに子供達を連れて遊びに行きました。
事故前と変わらずたくさんの子供達が楽しそうに遊んでいました。
週刊誌や報道の煽り、徹底的に放射能を避けているママさんの姿が放送されたりで不安でいっぱいになり、子供もきっとその不安を察しているようなピリピリした感じでしたが、ほとんどの家庭が変わらずの幸せな生活をしているんだと思いました。
精神的ダメージのほうが深刻かと…
大丈夫だと信じあまり神経質にならないのがよいのかと考えさせられました。
by ぽこ (2011-06-26 23:41)
ぽこさま
デンバーは標高が高いため 宇宙線が強く 都市全体の空間線量率が高いのです。
これはデンバーに限らず、世界中の都市で言えることです。
放射線をどれだけ気にするかについては はっきりとした正解はないのだと思っています。
個人の生活なら リスクを高めに見積もって 徹底的に対策するのも「あり」ですし、リスクが無いと見て普段どおりの生活をするのも「あり」だと思います。
私は その中間くらいでしょうか。
「リスクはあるけど 引っ越すほどには高くない」という理解です。
「低いがリスクはある」との考えですから、過大にならない範囲で対策はしていますし これからもするつもりです。
個人なら どちらの考えを採用しても良いと思うのですが、千葉県とか 柏市とか 行政の組織には「リスクが無い」という立場をとって欲しくはありません。
はっきりとした正解のない問題なら、責任のある立場の人たちには リスクを認めて安全側の対策をとって欲しいものです。
野田市に比べて 柏市の対応は あまりにも消極的に見えます。
by ゆでがえる (2011-06-27 08:31)