「安全・危険」と「安心・不安」 [放射能]



 多分 完全に旬を外したエントリーです。

 随分前に 柏市が発表した「専門家の見解」
 中村先生の発言には かなりの違和感があるのですが、直接の批判は水琴さんのブログと コメント欄でのたろうさんの意見に尽きるように思います。

 最大の問題は「もっと線量が高いところがあるんだから、柏くらいなら我慢しろよ」という不適切発言ですし、「除洗→膨大な労力と費用がかかる」という決め付けも生産的な思考が停止しているとしか思えません。

 福島と柏を比べる発言は 差別を助長しかねない問題ですし、科学的な議論の範囲を「柏での安全性」から「福島の線量での安全性」まで広げてしまうわけですから 意見の混乱を招くと危惧します。
 多分、このようなヤバイ言葉を吐かれるからには 中村先生は 自分の中で「福島の線量でも絶対に安全」と考えていて、尚且つ それが「専門家」の共通認識で、更には アホな柏の住民も受け入れるべきだと思い込んでいるのでしょう。
 かえるごときが 大先生に申し上げる言葉じゃないのですが、相当に視野が狭隘なんじゃないかと思います。

 また、柏での除洗を「多大な人員と費用がかかる」と考えているのも ちょっと変。
 校庭の表土除去みたいな大技だけではなくて、除洗活動の多くは 日常の清掃活動の延長だのはず。
 落ち葉掃きや ベランダ掃除や 雑草抜きなど、日々の生活や業務の一部でしょう。
 職員の被曝や追加のコストは冷静に見積もられるべきですが、「除洗は多大な費用が掛かるから無駄な努力」との決め付けは思考の動脈硬化も甚だしいのです。

 いずれも「柏の線量は絶対安全」という出発点に絶対の自信を持っていらっしゃるからこその見解なんでしょう。
 その立場を無批判で受け入れる人(特に市の偉い人)がいるとすれば よくよく見解の出発点や人の立ち位置を吟味するべきです。

 柏に限らず、昨今の放射能汚染に対する考え方は「安全・危険」と「安心・不安」の二つの軸があるでしょう。

 「安全・危険」といってもの どちらかに一方に割り切れるモノではなくて、多くの人は その間の段階のどこかの考えを持っているのではないでしょうか。
 中村先生のような考え方だと「絶対に安全」の立場でしょうし、閾値がないと考えれば「多分、安全」くらいの位置でしょう。
 逆に ECRRの考え方を採用している方だと「絶対に危険」の見解でしょうし、「分からないけど危険だろう」という立場も多いはず。

 「安全」か「危険」かの比較軸は 確かに科学の問題ではあるのですが、未だに結論が出ていません。
 徹底的に議論をしても この先しばらくは 万人が納得する結論は出ないでしょう。
 現在の柏では どの立場も混在する状況を受け入れるしかないのです。

 「安心」と「不安」の軸だって どちらか一方に割り切れるほど 人の感情は単純じゃないでしょう。
 「強く安心」から 「どっちつかず」を通って 「強く不安」までの範囲の何処かに分布しているはずです。
 さらに 「安全・危険」は思考の問題ですが 「安心・不安」は感情の問題ですから、多くの人は絶えず揺れ動いているものと思います。

 輪を掛けて 議論を複雑にするのは「安全と考えていても、安心と思っているとは限らない」という点です。
 「安全→安心」と「安全かどうか分からない(あるいは 危険を確信している)→不安」と 単純な二分法ならわかりやすいのですが、思考の出発点の「安全」が強固なものでないのが厄介です。

 ある放射線の量が 安全かどうかの事実は 共通の認識が作れません。
 議論のスタートになる「安全」は 理論や思考の中での安全でしかないのです。
 ですから、「理論的には安全なはずだけど、不安は残る」という ちょっと矛盾した立場も大いにありえます。

 不安は無知から生じるだけではないのです。
 ある程度の知識を持っている人でも(特にLNT仮説を信じる立場なら)不確実性から生じる不安はあるはずです。
 もっと深堀りすれば、「ICRPの基準」だって「安心の基準」や「安全の基準」なんかではなくて、行政や事業者にとっては「許容の基準」であり 住民にとっては「受容の基準」なのです。

 柏のリーダーは 感情的な問題で多様な分布を持つ人たちをまとめていかなければいけないのですから、大先生みたいなシンプルなデジタル思考に毒されることなく 様々な立場の人の意見に耳を傾けて欲しいものです。

 多くの柏市民は 知識が足りないから怖がっているワケでもないし、理論的に説得できれば安心させられるモノでもないのです。
 無知からくる恐れは広報活動や信頼醸成で軽減できるでしょうが、不確実性からくる恐れは教育や知識普及では軽減されないのです。

 中村先生みたいに 物事を極度に単純化して考えられる住民ばかりなら 市長さんも楽でしょうけどね。



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