生涯累積100ミリシーベルト [放射能]



 昨日の新聞報道で、生涯累積100mSvを目安に食品の暫定規制値を見直す方向との話が出ていました。
 その「累積100ミリ」というのも、どうやら 内部被曝と外部被曝を合算した数字の様子。
 数字の大小はともかく、方向性としては マトモな向きになった感じがします。

 今までは いろんな省庁が バラバラに 個別の基準を出しているだけ。
 外部被曝では 住民の避難に関する基準や 学校生活の基準が別個に出されて、それぞれ「年20ミリシーベルト」が目安にされてきました。
 内部被曝では 食品暫定規制値で「年5ミリシーベルト」の目安があっても 吸引被曝などは分からずじまい。
 ましてや 外部被曝と内部被ばくの二つをあわせたら どれだけになるのか、誰も考えていなさそうな感じがしていました。

 それが 今回は「内部被曝と外部被曝、両方 合わせて考えましょう」となったのは 一歩前進でしょう。


 それに、「年20ミリシーベルト」のような単年の基準だと、この先 どれだけ被曝が積み重なるのか分からないのも問題です。
 直ちに影響なくても、何年も汚染地に住んでいたら 積もり積もって 大きな被曝になっていないか不安になります。
 子供が長く その土地で暮らしていっても 問題が起きないようにしたいと考えると、1年間の被曝量に加えて 長期の累積被曝で基準を作るのは必須の課題。
 今頃 このような意見が出てくるのでは 遅すぎるくらいです。


 能書きは ここまでにして、この「生涯累積100ミリシーベルト」を ちょっと掘り下げて考えてみましょう。

 私 ゆでがえるが「生涯累積100ミリシーベルト」という基準を 初めて目にしたのは、まだ勉強熱心な時代のことでした。
 歳がバレますが、それなり(相当?)に昔の話です。
 何処で読んだかは はっきり覚えていないのですが 保健物理学会か何かの文献だったと思います。

 ぱっと見ただけだと 「年1mSv」の変化形にみえるのですが、1年に限ってみれば かなり大きな被曝が許容されますから 当時は「随分と緩い基準」だと思ったものです。
 その後にも 事故の前から この「生涯累積100ミリシーベルト」というのは いろいろな人から耳にすることになるのでした。

 柏市が出している「専門家の見解」の中でも、藤井先生が「私見」と断りながらも「生涯100ミリシーベルト」「健康への影響が少ない目安」としています。
 これは 別に「事故に対応した緊急時の基準」ではなく、事故の前から「通常時の一般人への被曝の目安」として提唱されたことのあるレベルでもあるのです。
 今でも 私はこの数字を平時に使うには「緩い基準」と思っていますが、事故後の数字と思えば「現実的」とも「挑戦的」とも取れる水準です。


 では、どの辺の線量率までなら「生涯累積100ミリシーベルト」の基準内といえるのでしょうか。
 またまた素人計算を武器に ちょっと数字をいじってみましょう。

 まず、前提となる条件です。

・日本人の平均寿命を考え、「生涯=80年」と仮定します。
・今回は 放射性セシウムによる外部被曝だけで計算します。
・放射性セシウムの比は「Cs134:Cs137=1:1」で、物理的半減期に従うものとします。
・生活パターンは 木造住宅に居住し、屋内16時間と屋外8時間の設定です。

 セシウム134の半減期は2年、セシウム137の半減期は30年。
 汚染量から線量率への換算係数は「IAEA-TECDOC-1162」からの引用で、セシウム134は「5.4E-6[(mSv/h)/(kBq/m2)]」で セシウム137は「2.1E-6[(mSv/h)/(kBq/m2)]」

 あとは 等比級数の和の公式で計算してしまいましょう。
 高校数学の計算です。ゆでがえるは??年ぶりです。
 80乗を普通の電卓で計算するのは大変なので、関数電卓を使った方が良さそうです。
 (使える人は表計算ソフトで…)

 すると出てくるのが「セシウム137の汚染量1kBq/m2あたり 0.560mSv」という数字。

 大雑把な目安なのですが、柏市の汚染量(推定5万ベクレル/m2)だと、事故由来の累積外部被曝は80年間で約28mSvと見込みます。
 ひどいことがなければ 内部被曝込みでも30mSv前後でしょうか。
 相当に長生きしても「生涯累積100mSv」には届きそうにありませんねえ。


 逆に この「生涯累積100mSv」を越えそうなのがセシウム137で約18万ベクレル/m2以上の土地ということになります。
 現在の空間線量率でいうと、1.4μSv/hを超えている場所です。

 筑波大学の資料で見てみると、黄色で塗られた地域までは基準内ですが オレンジ色で塗られた地域だと現状ではアウトとなってしまいます。
 中通りには 除洗しないと厳しい場所が広くありそうですし、宮城県にも対策が必要な箇所があるでしょう。
 避難対象になっている地域だと 生涯累積で500mSvを越える場所がありますから、今後予想される規制解除などが心配です。


 それにしても この「生涯累積100ミリシーベルト」でさえ 福島県だと挑戦的な数字です。
 これまでは 汚染の実態に合わせて 甘い基準を作ってきたように見えるのですが、今回の数字は 現状より厳しいところでしょう。
 食品暫定規制値の改訂で 提言がちゃんと生かされることを願うとともに、外部被曝についても せめてこの水準を狙って対応を取ってほしいものです。
 それには 誰かが 住民の被曝を総合的に見守っていく必要があるのですけど、今は まだその体制になっていなさそうなのも心配です。


 福島を離れて、関東圏での話なら 千葉県や東葛地区の偉い人方には 緩めな「100年で100mSv」の水準に甘んじてほしくありません。
 現状の「10年で10mSv」のペースからもう一頑張りして「5年で5mSv」を目指して対策して欲しいところなんですけどねえ。


(追記)

 半減期が短いヨウ素131を計算に加えても 生涯累積の被曝線量はほとんど増えないようです。


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ERIKO

柏夜話さんからのサーフィンでお邪魔するようになりました。

震災以後、文系人間の私は、ネットであふれかえる情報に右往左往する毎日でした。「専門家」と名のつく人は「危険」派と「安全」派の二つにしっかり分かれ、両派とも生活視点がない分どちらを信じたらいいのか・・・。

計算をしながら説明して下さり、同じ子を持つ親として、本当に初めて納得と理解、安心をすることができました。

相変わらずびくびく怯えながら暮らしています。心配のあまり、子供にもつい余計な怒声をを浴びせてしまいます。

それでも、ゆでがえるさんのおかげで少しずつ震災前の母親に戻っていけそうな気がしています。

本当にありがとうございました。
by ERIKO (2011-07-28 21:42) 

ゆでがえる

 ERIKOさま
 
 私も なかなか震災前の状態には戻れないですよ。
 「安全なんだろう」と思いつつ、完全には安心し切れない変な気分です。
 「安全派」も「危険派」も 極端な人が混じっているので、自分で計算しないと なかなか納得しきれないです。
 もう少し柏市が対策を出してくれると 安心感が出るのかもしれません。
 牛久市が学校の除洗を進める記事が今日出ていましたから、柏市や松戸市も もっと前向きに不安解消策を出して欲しいと思っています。
 「完全な安全」がないなら、「より安心」を目指すしかないのですから。
by ゆでがえる (2011-07-29 11:10) 

michi

いつも丁寧な考察ありがとうございます。

柏で生活していくうえで、最も大事なのは精神力ではないかとこの頃
思います。
ゆでがえるさんがおっしゃるように、極端な意見が混ざっているので、
その日少し不安な方に偏っていると、後から考えるとそんなバカな!と
いう情報にもまともに反応してしまうし、それで1日駄目にしてしまうことも
たまにあります。

もう少し行政が積極的になってよいと思うし、市民に協力を求められる
ところは求めてもいいのに・・・と思います。
政府の見解が少しずつ変ってきていることが希望ではありますが。
by michi (2011-08-03 14:23) 

ゆでがえる

michiさま、こんにちは

 確かに精神力というか 忍耐力みたいなモノは必要ですよね。
 私は電車を使うことが多いので、雑誌の中吊りはダメージ大です。
 柏市の対応は ちょっと鈍い気がしています。
 茨城県内の市町村は学校対策だと機敏に動いているように見えるんですけど。
 東葛の中だと 流山の動きが早いようですが、いずれ柏市にも波及してくれないかと願っています。
by ゆでがえる (2011-08-04 16:15) 

柏っ子親父

水琴さんのところ経由でお邪魔している、柏っ子親父です。

精神力で思い当たったサイトがありますのでご紹介します。

居士林だより
http://kojirindayori.blog108.fc2.com/

鎌倉の古刹円覚寺の情報サイトですが、管長様のお話が(ウェブ担当者の要約ですが)不定期で掲載されます。

みずから義捐金の托鉢に立たれたり、被災地の寺を慰問して歩かれたりしている管長様が、震災その後を意識してお話をされたり、揮毫されたりしています。

「そんな境地にたどり着けたら世話はないよ」と思うこともありますが、自分に言い聞かせる言葉をいくつも頂戴しています。

ご参考になれば幸いです。


by 柏っ子親父 (2011-08-06 10:53) 

ゆでがえる

 柏っ子親父さま、こんばんは

 震災の後からというもの いろいろな方の言葉が ひとつひとつ重く感じられます。
 何事であれ 道を究めた方の言葉は どれも重みがあります。
 これまで 何も感じ取れなかったモノの中に 深い意味を教えられる毎日です。
 自分が生きている意味、生かされている意味、これまで考えることなんてなかったんですけどね。
 
 ご紹介いただいたブログ、これからも見させていただきます。
by ゆでがえる (2011-08-07 22:39) 

柏っ子親父

柏っ子親父です。
 私も以前読み流していた文章や聞き流していた歌詞の奥深さに驚くことの多い日々です。

 円覚寺の管長横田南嶺老師は毎度のように「自分の話なんか忘れて、さわやかな風を感じてお帰りになればよいのです」とおっしゃっておいでのようですが、やはり心に残る言葉は数々あります。

 私は、震災前のお言葉ですが、「ありがたい 何はともあれ 生かされている」という標語が忘れられません。
by 柏っ子親父 (2011-08-08 12:22) 

ゆでがえる

 柏っ子親父さま

 風を感じられること、緑を愛でられること、自然の恵みを味わえること、311前は当然のことだったのに 今になって初めて 有難みを感じさせられます。
 本当なら 震災なんてなくても 理解しなければいけないことなのでしょうが、それがなんと悟りがたいことか。
 当たり前のことが 当たり前であり続けるって なんて難しいことなんでしょう。

 来週から ちょっと津波被災地に行くのですが、また 柏に居るのとは別のショックを受けそうで怖いところです。
by ゆでがえる (2011-08-12 08:03) 

柏っ子親父

柏っ子親父です。
 このコメントをごらんになるのは被災地から戻られてからかもしれませんが。
 同僚が被災した親戚を見舞いに何度か出向いているようなのですが、肉眼で見る被災地は言語に絶するそうです。
 阪神大震災を大阪で経験し、半年後とはいえ被災地に何度か足を運んだ経験のある私でも、以下のサイトのような映像を見るだけでも正直具合が悪くなります。これから一生、「宇宙戦艦ヤマト」を見るたびにこの漁船を思い出すだろうと思います。

http://gilyakamagasaki.com/2011/05/09/report_20110508/#more-375

http://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=R8mHhQvnAr8

 どうぞご無事で。


by 柏っ子親父 (2011-08-14 16:36) 

ゆでがえる

 柏っ子親父さま

 前半戦が終わって帰ってきました。
 新聞で見て理解していたつもりなのですが、実際に目の当たりにすると 言葉にできないショックがありますね。
 そこらじゅうに新盆の白提灯が並んでいるのも異様ですし、よく行った鯛焼き屋や中華料理屋が廃墟になっているのも悲しいものです。
 自分が過ごした子供時代が 本当にもう戻ってこないんだなあと実感させられました。
 通っていた学校が6月までは遺体安置所でしたし、遊んだ広場が仮設住宅になっています。
 私なんかが出向いても、何もできないんですよね。
 仕事で入るならまだしも、親戚回りと自分の家(しかも空家)の後始末だけですから。
 また、今週後半には また行かなければならないんですが、少しでも役に立てばと思い 地元産品を買っては消費しております。
 おもに地酒、地ビール、地ワインの類ですけどね。
by ゆでがえる (2011-08-16 20:34) 

柏っ子親父

柏っ子親父です。
 ゆでがえるさんのご自宅・ご親戚も被災されていたのですね。たいへんなお盆だったことと思います。お見舞い申し上げます。それに加えて柏の放射線、しかも以前のHNによればお仕事も責任の大きい激務だったかと思います。この猛暑の中、お疲れいかばかりかとお察し申し上げます。お身体くれぐれも大切になさってください。
by 柏っ子親父 (2011-08-17 11:51) 

しん

こんばんは。同じ市民の方が落ち着いて行動されていて
頭が下がります。
不躾なお願いで大変恐縮ですが、
「80年間で約28mSv」の計算過程をもう少し詳しく教えて
いただけませんか。
よろしくお願いします。
by しん (2011-10-23 21:49) 

こんにちは

内部被曝については、シーベルトはあてにしない方がいいですよ。
ICRPの内部被曝計算はほとんど推測にすぎませんから。
by こんにちは (2012-05-02 19:01) 

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