きのこと、牛と、スピード違反(その1) [放射能]



 久しぶりにノンビリした週末、新聞を開いてみるとセシウム牛の話題が紙面を埋めています。
 キロ数千ベクレルの食品が流通していたというのは 確かに非常にショッキングです。
 微量でもセシウムが出ただけで 普通は食欲がなくなるというのに、問題のお肉は規制値の数倍。
 暫定規制値の一桁上に軽くなってしまっています。

 担当部署は 汚染牛肉を懸命に回収しようとしているようですが、既に消費された分も多い様子。
 「凄く汚染された肉を食べてしまったかも」と怖くなるのは当然なのですが、パニックはちょっとストップ。

 汚染牛肉が食べられてしまうまでの過程をちょっと考えてみましょう。


 まず最初の関門が、牛が農家から出荷される段階で体表汚染のチェックと飼育状況の聞き取り調査が行われたことになっています。
 今回は 農家が虚偽の報告をしたために出荷が止められなかったとされています。
 自発的な申告に依存する体制では どんなに調査を強化しても 汚染食品を完全に止めることは出来ないでしょう。
 かといって、飼育中の全飼料の証明を求めるような方法も現実的ではありません。

 次の関門が 市場に流通する段階で行われる放射能のサンプリング検査。
 今回は 東京での検査で汚染牛肉が見つかり、どんどん範囲が広がってきたワケです。
 放射能の測定は 全量検査ではありませんから 汚染食品を完全に止める力はないのです。

 最後の手段は 市中に流通してしまった段階で汚染食品を回収することです。
 今回は 汚染判明の後 保健所への報告や回収が遅れたことがいわれています。
 ただ 食品の消費速度を考えると どんなに頑張っても この段階での成果は限られるはずです。


 どの段階での対策でも 汚染食品を完全に止めることは不可能です。
 どんなに頑張っても 無限大の検査リソースを想定しない限り 基準越え汚染食品は完全にはなくなりません。
 出来るのは 検査の回数を増やして 汚染食品が流通する確率と総量を少しでも減らすことだけです。

 福島県産の牛肉を全量検査するというのは、一つの対策ではあるでしょう。
 でも、実際に検査を行う体制が作れるのかは怪しいですし、検査のリソースを牛肉に重点的に振り分けるのが正しいのかも疑問です。
 疑い始めたら 福島県以外の牛肉だって不安になるし 牛肉だけが食べ物ではありません。
 検査のサンプルは多いほど望ましいのですけど 全食品全量検査なんて絶対に無理でしょう。

 このセシウム牛問題、本当の怖さは「汚染肉が流通した」ことではなく、むしろ「汚染肉が生産されてしまった」ことにあるように思います。
 流通段階の対策は採られてきているのに 今回は生産段階での対策が全く機能していないのです。

 生産者が屋外に置かれた麦藁の汚染を認識していなかった。
 政府や組合などによる放射能知識の普及が行われなかった。
 汚染軽減策があるのに 今まで対策されていない。

 もう事故から4ヶ月ですが、今頃 新聞にペルシアンブルーの有効性が書かれるようでは後手後手感が強くなります。

 基準値を越えた食品を流通段階で完全に止めることは出来ないのですから、それぞれの段階で 少しずつでも汚染を減らす効果を高めていくしかありません。
 まだまだ不十分ですが事後的な検査体制が強化されつつある中で 生産段階の対策が抜け落ちているのはどうしたものでしょうか。
 素人目には 流通段階での対策より 効果的でコストパフォーマンスの良いように思えるのですけど。

 事故初期に 「安全・安心」ばかりを強調したツケが 今頃 回ってきているのでしょう。
 「安全です」で思考停止させていては、汚染を減らす努力まで気が回らなくなります。
 まあ、牛肉だけに限った話じゃないワケですけどねえ。

(ちょっとだけつづく)



逆算で考える食品からの内部被曝 [放射能]

 前回まで汚染土壌の直接摂取と再浮遊粉塵の吸引被曝を大雑把に計算してきました。
 最後に 食べ物についての内部被曝を 考えてみます。

 食品からの内部被曝については 様々な方が良い情報を発信していらっしゃいます。


 勝川俊雄 公式サイト
 http://katukawa.com/

 食品からの内部被曝に関する参考値(水琴さんのブログより)
 http://yawa.blog.so-net.ne.jp/2011-05-21


 役に立つ知識については そちらをご参考にいただけるとよろしいかと思います。


1、まずは下準備

 最初に 暫定基準値の元になった核種の比率を見てみましょう。

 食品の中のストロンチウム量は 今のところ 信頼できるデータがまったくありませんので、ちょっと大き目かもしれませんが 食品安全委員会の比率を使います。
 今、日本で調べられているのはセシウム134と137だけですが、ストロンチウムのオマケもついてきていると考えます。

 基準値の導出に使われたのはもっと細かい数字なのですが、電卓でも計算しやすいように 数字を丸めてあります。

 

存在比

実効線量換算係数
(成人・mSv/Bq)

セシウム134 0.5 1.9E-5
セシウム137 0.5 1.4E-5
ストロンチウム89 0.3 2.6E-6
ストロンチウム90 0.05 2.8E-5



 この数字で計算すると…

 セシウムを1ベクレル食べてしまうと、0.3Bqのストロンチウム89と 0.05Bqのストロンチウム90がオマケで付いてきていると見込みます。

 要らないのについてくるストロンチウムまで計算すると、セシウムを1Bq食べてしまうと1.868X10-5mSvの被曝になります。

 これを元に 内部被曝の目標ごとに どんな対策が必要なのか 計算機を叩いてみましょう。


1、年1mSvまで 内部被曝を許容する場合

 暫定基準値の基本となっている5分の1の水準ですが、どのくらいのセシウムを食べたら1mSvになるのでしょうか。

 上の試算 セシウム134とセシウム137の合算で 1Bq食べてしまうと1.868X10-5mSv。

 1mSvになるのは 53533Bqを1年間に食べてしまった場合です。

 これを365で割ると 1日当たり146.7Bq入ってしまったことになります。

 1日に成人が口にする食料は 約1.5Kg。

 平均すると 97.8Bq/kgの食料を 毎日食べ続ける1mSvに達することになるのです。


 さて、このところの食品汚染の具合は 厚生労働省のページで調べることが出来ます。
 東都生協さんの資料も 小さい数字まで生のデータを出しているので非常に参考になります。

 最近の公表数字を信じる限り、セシウム134と137の合計が 100Bq/kgに達している食品は多くありません。
 福島や茨城の魚とか シイタケや竹の子などだけのようです。

 検査の頻度や流通食品の多さを考えると もっともっと高い濃度で汚染された食品が出回っていると思うべきですが、色々な食材を偏りなく食べていれば 平均では極端に高い数字にはならないでしょう。

 今のところは お店に並んでいる食品を無差別に食べていっても、普通の食習慣をお持ちなら 1mSvには達しないものと予想いたします。



2、年100μSvを切りたい場合

 年100μSvを切ろうと狙う場合、上の数字を10分の1にしなければなりません。

 1年当たりのセシウムは5353.3Bqで一日になおすと14.7ベクレル、平均9.78Bq/kg以下の食品を買っていく必要があります。
 (とりあえず 調理による減少分は無視します)

 厚生労働省の発表を見ると、野菜のほとんどは未検出になっていますので 簡単そうに見えますが、公式発表だけでは検出限界がどのくらいなのか分かりません。

 各県の発表を見ていくと 小数点以下の細かい数字を出しているところと、二桁の数字はあるけれど一桁の数字がないところに分かれます。
 千葉の水道水の発表では10Bqを検出限界として、それ以下を「未検出」としていた前例があります。
 発表で未検出となっていてもゼロではなく、一桁ベクレルは覚悟しなければなりません

 必然的に、未検出の食品だけを食べていっても最悪の場合100μSvの被曝を覚悟しなければならないでしょう。
 外国や西日本や北海道の産品を可能な限り選ぶにしても、東日本の作物を口に入れないワケにもいきません。

 もちろん、発表で二桁ベクレル含まれている食材は極力口にしない。
 三桁ベクレルの食品は 加工食品の原料まで注意して絶対排除くらいの覚悟でいかないと 確実に100μSvを切っているという確信を持つのは難しそうです。

 今年の夏以降、新米が出回るようになったら 更に注意が必要でしょう。



3、更に下を狙う場合

 更に下で 二桁マイクロシーベルトも下の方を狙うとなると、相当に食材吟味をしないと難しい印象です。
 平均で1ベクレル/kgを切る食品だけ食べていけばよいのですが、柏に住んでいて可能なこととは思いにくい。

 現実的には 外国産品と西日本の食品で固めて、最終的に平均5Bq/Kg・年間50μSvあたりを狙うのがミニマムでしょうか。

 もちろん、外食は完全に止める必要があります。
 普段 どんなに気をつけていても 500ベクレル入っただけで あっという間に10マイクロシーベルト。
 平均して10ベクレル/kg(検出限界なみ)の食事を毎日お昼に食べていったら 1年間で1200ベクレル 口に入ってしまいます。

 難関は 加工食品に紛れ込んでしまう危険食材でしょうか。
 混ざってしまっては 識別するのが困難ですし、産地も分かりませんからね。


4、ちょっと結論

 この7月からの1年間で、新米が出回るまでのお話ですが…

 ・ 年1mSvの内部被曝(年間約50000ベクレル)を許容できるなら 相当自由に食べられる。
 ・ 食材に気を使うなら100μSv(年間約5000ベクレル)を切るのが目標。
 ・ 今となっては10μSv(年間約500ベクレル)は遠い夢か


 という訳で、気をつけて食生活をしている人だと 100μSv前後、気にせず食生活をエンジョイする方針の人でも1mSvには届かない感じでしょうか。
 普通に生活していれば その間のどこかになるでしょう。
 そこから下 10μSvに近づけようと思ったら 相当徹底的な対策が必要と思います。

 私は 100μSvを切りたいと思っているのですが、外食があるので ちょっと無理かもしれません。
 それにしても 今年の新米にどれだけセシウムが入ってしまうのかで 対策の難易度が分かれそうです。



グレーゾーン愚考 [放射能]


 前回は、安全らしい領域と 危険らしい領域を考えてみました。
 とりあえず「あまり考えなくて良い」1mSvから、ハッキリ悪い影響が出る100mSvまで 広大なグレーゾーンが広がっていることだけが分かります。

 ハッキリとした証拠はなく、誰もどれだけの影響があるのか 断言できない領域です。
 それでも 世の中には とりあえず「世界標準」とされている教義があります。


1、「直線閾値なしモデル」派

 最近 その名を聞かない日はないICRPが奉っている仮説です。
 一応は 世界で標準的に受け入れられている教義とされています。

 この派閥は「どんな低線量でも放射線は有害」と考えることにしています。
 ハッキリ有害と認めるのは100mSvからですが、そこから下の線量でも 同じ割合で悪いことが起こるとみなします。
 低い線量でも害があると考えた方が 安全を守れるのですから 当然といえば当然です。

 今の教えでは 100mSvで0.57%癌による死亡が増えるなら、10mSvなら0.057%増えて、1mSvでも0.0057%増えていると考えなさいということです。

 証拠はありません
 ですが、「そう想定して対策をしましょうね」というのが この派閥のお約束。

 この派閥では 運悪く癌になった人の余命損失は「13-20年」と想定していますから、下のような議論が出てきます。

 5mSvを被曝した時の 損失余命は 2日と2時間。
 10mSv被曝したら 4日と4時間、100mSvなら 41日と16時間、貴方の寿命は失われると考えることにするのです。


 正直、これは ちょっと受け入れにくい計算です。
 私たち一人一人は 一つの命しか持っていませんから 癌になるか ならないかは半々でしかありません。
 平均的に寿命が数日縮む個人などいないのです。

 でも、その違和感を置いて おきましょう。
 役所の偉い人や 医者や 保険屋は よくやる種類の計算です。

 この先 柏に住み続けると どれだけのリスクがあるのでしょうか?
 この宗派の教義に照らして 計算してみます。

 柏に済み続けて余計に受ける外部被曝は これから5年で7.5mSvと仮定します。(木造住宅居住・屋外滞在8時間)
 外部被曝だけで計算すると、あなたの寿命は3日と3時間短くなる この教義は見込みます

 この数字には 証拠はありません。
 仮説ですから 当然です。

 それでも「直線閾値無しモデル」派閥の信者ならこう言うでしょう。

 「この仮説が 今は一番 もっともらしいのですから、証拠はなくても そう考えることにしましょうよ」

 証拠は無いし、本当かどうかも分からないけど、そう仮定することが安全に寄与するなら その前提で対策を考えなさいというのが根本的な教義なのです。



2、「閾値があるんじゃないか」派

 ICRPの「放射線はどんな低線量でもリスクと考えなさい」という考え方に対して、「低線量なら危険じゃない範囲がある」と考える人たちもいます。

 世界中には 普段の日本の数倍も線量率の高い土地が ゴロゴロあります。
 日本の国内だって0.3μSv/h以上の土地が普通にあります。

 そういう土地で調査をしても 発ガン率も 平均寿命も 差が出ていないじゃないかというのが、この宗派の主張です。
 (もちろん 他にも色々な調査が根拠として主張されています。)

 ただ、この手の「閾値説」も 厳密な証明は不可能です。
 すぐに思いつくのは「放射線の多い地域には 放射線に耐性のある人だけが選択されて生き残っているのではないか」という反論です。
 更には「閾値が存在するにしても全ての人が同じ程度に放射線に強いとは限らないのでは」という言い方もできます。
 他にも 「本当は有害なのに 調べた母数が少なくて リスクが分からないだけじゃないのか」という反論もあるでしょう。

 反論はさておき、この宗派の考え方だと 柏の現状はどうなるのでしょうか。

 この先1年間で 外部被曝の線量はバックグラウンド込みで推定 約2.4mSv(木造住宅・屋外8時間・屋内16時間)、ラドン由来が1.26mSv、食品由来はバックグラウンドで0.4mSV、再浮遊粉塵と土壌摂食分を多めに0.1mSv見込んで、合計は4.16mSv

 これは 平均的なデンバー市民(年4.5mSv・数字は米国エネルギー省)より少ないし、日本国内で考えても ラドン温泉周辺で1年暮らすより低い数字となります。
 このくらい被曝している地域は世界中にあるワケで 「柏は安全です」とか「避難する必要はありません」といっている人の根拠になっているのです。

 そういうわけで「閾値が存在する」という考え方も それなりに根拠があるのですが、そう仮定するにしても 低い線量の方が 安全なのは間違いありません。

 自然の放射能だけで 年間5mSvに達する土地は それなりに数があるけど、年間10mSvに達する土地は少ないのです。
 それを越えて 年間20mSvになる土地は 地球上には存在しません。

 閾値があると仮定するにしても 出来るだけ不要な被曝は抑えたいものです。
 どこに閾値があるかなんて 分かりはしないのですから。



3、過激な宗派について

 上に書いた2つの意見がよくある考え方だと思うのですが、世の中には もっと過激な宗派が存在しています。

 まずは ECRRという組織が中心とする宗派。
 同じ4文字アルファベットの組織ですが、ECRRは公的な機関ではなくどこかの環境保護団体みたいな雰囲気です。
 週刊紙などで見たことがあるかもしれませんが「日本で10万人癌が増える」と言っている人たちです。
 その教義を柏に当てはめると 柏でも11%癌が増えることになります。

 この教えについて私は深く理解していませんが、根拠からの数字の作り方に無理があるように思います。
 この説への批判は 色々なブログでなされていますので リンク先を参考にしてみてください。

 buveryの日記
 http://d.hatena.ne.jp/buvery/20110520

 それだけの割合で癌が増えるなら チェルノブイリの時に スエーデンだけではなくドイツやフィンランドでも同様の事実がはっきりと出なければおかしいのです。

 内部被曝が危険なのは疑う余地はありません。
 ICRPの推定より何倍も危険な可能性は十分にありえるでしょう。
 そもそも 個々人の内部被曝の定量はほぼ不可能なのですから 安全寄りに考えるのは間違っていません。

 それでも、私は この「11%」という数字を 全く信じていません。


 そして、もう一つの過激な宗派「100mSv原理主義派」です。
 こちらは ECRRより 非常に危険な考え方なのに、偉い人に信者がいそうな雰囲気です

 この宗派の人たちは ICRPがハッキリ「有害」と認める100mSvまで [健康に影響がない」と本気で考えています。
 「有意差がない=無リスク」と考えるのは、「目に見えない物」を「存在しない」と考えるのと同じです。

 個々人が 放射能リスクをどう考えるかは その人の自由な選択で良いのですが、国や自治体を動かす人たちには 安全側の仮定を採用し動いてもらわなければ 住民が不要なリスクを取らされてしまいます。

 少なくとも 世界的な評価の基準は ICRPの考え方ですし、LNT仮説が今も標準の教義なのですから むやみに基準を緩めていこうとするのは論外です。
 本来のあり方は「事態が長期化→基準を厳しくする」が正解だし チェルノブイリのときの各国の対応もそうでした。
 それなのに 「事態が長期化するから 暫定基準を緩くしようね」というのは 真逆の対処で、そういう場面で100mSv原理主義の意見が主張されるのは 恐ろしいことです。

 日本は ICRPの教義に則って 対処してきたわけですから、公的な人たちは 住民の安全のために「低線量でも危険はある」と考える立場を採らなければいけません。
 そして 住民のリスクを出来るだけ抑えるように 合理的に可能な対処をしなければいけません。
 福島方面で手一杯であろう政府はともかく、これだけ騒がれても 対策を全く打とうとしない柏市の対応は お粗末というしかありません。



4、ちょっと結論

 ・ ICRPの教義を採用するなら 柏市に住み続けると 数日寿命が縮む程度のリスクがあると考えられる。
 ・ 閾値があると考えるなら 柏市の線量は世界によくある数字で リスクは低いと考えられる。
 ・ ECRRの主張する数字は信憑性が低いのではないか。
 ・ 「年100mSv原理主義」が公的に信奉されるのは かなり危うい。
< ・ 個人はどの説を採用しようと勝手だが、行政は安全寄りの考え方で対処すべき。


 私は とりあえずICRPの基準を採用することにしています。
 柏市に住み続けるリスクと 避難するデメリットを考慮すると、今の水準なら 引越しよりも 線量を減らす対策をとるというのが 今のところの方針です。
 本当は 緩やかな閾値が何処かにあるのではと思いたいのですが、甘い考えだけで対策をしなければ どこかの怠慢市と同じになってしまいますからね。



どの水準で逃げますか? [放射能]


 柏市が週刊紙を賑わした一週間ですが、週刊G誌は「柏から避難すべき」のスタンスで記事が書かれているようです。
 他にも 疎開推奨の記述を あちらこちらで見かけて 精神衛生上 実によろしくない状態です。

 何処までなったら避難するのか?
 何処までだったら留まるのか?

 あまりハッキリ書かれているのを見たことがありません。

 本来なら 外部被曝だけで論じても仕方がないし 事故直後の被曝量の方が大問題なんですが、この6月に避難するべきかということだけを考えてみたいと思います。



1、この水準なら逃げない

 まず 最初に出てくる安全側の目安が 非常に有名になった「年1mSv以下」
 これは平常時の基準ですが、緊急事態の今でも守れるなら守りたいところ。
 このくらいの数字だったら 避難の必要がないと分かります。

 週刊G誌で某教授が「0.16μSv以上は危険」と書いていますが、これは「年1mSv」から来た発言でしょう。
 自然放射線を0.05μSvとすると、福島事故由来の線量が0.11μSv/hになって 24時間外にいても「年間1mSv」以下になります。

 確かに守れれば嬉しい水準ですが、守れるのは神奈川以西か 岩手県以北まで行かないとダメでしょう。
 東葛地区だと まあ 当面は絶望的な数値です。

 ただ、某先生は24時間屋外にいる条件で数字を出していますが、屋内にいる時間も計算に入れると もう少し上の数字でも大丈夫。
 これまでのように 1日「8時間屋外・16時間木造住宅屋内」で過ごす条件だと「0.21μSv」程度までセーフになります。
 これだと 都内西側・千葉でも房総方面・茨城県なら中央部で 結構な場所が大丈夫になる計算です。


 次に 安全寄りの指標が「5年間で年平均1mSv以下」というやつです。
 これはICRPの2007年勧告で 公衆被曝の限度量の後ろの方に括弧付きで「特別な状況のみ1mSvを超えることも許容されるが、5年平均で1mSvを超えない」と書かれている基準です。
 どうしようもない事情なら「数年は1mSvを越えても仕方がないね。だけど 5年間で5mSvは守ろうね。」という雰囲気でしょうか。

 「特別な状況」の解釈は難しいのですが、他の条文とあわせて読むと「被曝低減対策が完全に崩壊してしまった緊急時」とまではいえない程度の事故を想定している感じです。

 この基準だと 今現在の空間線量率で「0.25μSv/h」くらいまでがセーフになります。
 北関東でも かなりの部分が この範囲に収まるのではないでしょうか。
 残念ながら 柏や松戸は 大部分がオーバーしてますけどね。

 ここまでが、平常時の基準で考えられる範疇といえるでしょう。

 もちろん、外部被曝だけ考えていても仕方がありませんので、これから先の話なら 再浮遊粉塵の吸引などで1割程度低めの数字を見ておけば まあ大丈夫でしょうか。



2、「年1mSv」の意味は

 安全側の目安として有名になった「年1mSv」
 でも、よくよく読んでも この数字でさえ 「安全」とは書いてありません
 ICRPが「閾値なし」を前提にしている以上 当たり前なんですけどね。

 代わりになんて書いてあるかというと、「被ばくした個人に直接的な利益はないが、社会にとって利益があるかもしれない状況」とのことです。
 意訳すると 「被曝する人に利益はなくても 社会にとって有益なら 勝手に被曝させても良い線量」くらいのニュアンスでしょうか。
 100mSv以下なら証拠はないし、更に低くて微量だから「巻き散らかしても我慢してね」というのは ちょっとあんまりです

 また別の解釈では、「年1mSvずつ被爆していっても 寿命の中では(ICRPが有意差を認める)累積被曝が100mSvいかないよね」ということらしい。
 生涯累積100mSvまで 本当に有意差無しなのかは 極めて怪しいのですが、累積が大きくなる頃には 普通に死ねる歳なワケで因果関係が分からないでしょうとも裏読みできます。

 LNT仮説を採用するなら どんなに低い線量であれ「無意味な被曝は避けるべき」という結論しか出てこないでしょう。



3、この水準なら逃げる

 逆に どの位なら 逃げるべきでしょうか。

 まず、最後の砦といえるのが「年100mSv」
 ICRPでさえ「これより高い線量では 確定的影響が増加し、発ガンのリスクが増す」としています。
 避難が可能な状態であれば、この線量の地域に留まることはありえません。
 空間線量率では「二桁μSv」の地域がこれにあたります。

 この下の「年20mSv~年100mSv」「被曝低減対策が崩壊した場合に適応」されると書かれています。
 今のような緊急事態では この範囲から目安線量を決めて 対策をとることとされています。
 日本政府は この中から一番低い「年20mSv」を採用したわけですが、安全な線量として選ばれたわけではありません。
 とりあえず、「年20mSv」を越えそうな地域なら やはり引越しをえらぶでしょうか。
 現在の空間線量率だと 屋内生活を考慮すると「3.4μSv/h」を越える状態だと一家脱出を考えます。


 というワケで、私なら…

 ・ 0.25μSv/hくらいまでは逃げない。
 ・ 3.4μSv/h以上なら逃げる。


 粉塵などの内部被曝の余裕を見るなら もう少し低い水準でも 疎開でしょうか

 ただ、どちらにしても その間には 広い広いグレーゾーンが広がっています。

 安心できないし、危険だとも確信できない。
 どっちつかずの地域です。

 この 年1mSvから年20mSvの間の線量について ICRPは「個人が直接利益を受ける状況に適応される」と書いています。
 「リスクと住み続けるメリットを比べて 各自の判断でどうぞ」ということでしょうか。

 とはいえ どのくらいのリスクか分からないと対応の仕方がありません。

 政府も「リスクがあるよ」とは言わないし(言えないのか?無リスクと信じているのか?分からないけど)、学者先生も判断基準を出しません。

 悪いことに 東葛の大部分は この嫌な状態に嵌ってしまっています。
 次回は ちょっと悲観的に グレーゾーンのリスクを考えてみたいと思います。



土埃の中の放射能(その2) [放射能]


 前回は 再浮遊粉塵による内部被曝を 成人を例にとって計算してみました。

 では、子供の場合はどのくらいの数字になるのでしょうか。


1、1歳くらいのお子様の場合

 この年齢の子供の場合、一日8時間 毎日 外遊びをしていると考えるのは ちょっとやりすぎでしょう。
 とりあえず、1日4時間 活発に外で動き回る場合で計算してみます。

 吸入放射能量から実効預託線量に換算する小児の係数が 日本語では良い資料が見つかりませんから、またまた ココから拝借です。

 この年齢の呼吸量は ちょっと多めの見積もりながら「0.35m3/h」を使います。(出所はココの6ページ)
 成人では労作時の換気量を使っていますので 子供でも運動時の呼吸率を使います。
 この数字は 正直 ちょっと(かなり?)多すぎの印象ですけど、元気なお子さんということで・・・

推定汚染濃度 屋外滞在時間X1年 呼吸量(m3/h) 換算係数
(Sv/Bq)
年間被曝量
セシウム134 0.2Bq/m3 4時間X365日 0.35 6.3E-8 6.44μSv
セシウム137 0.2Bq/m3 4時間X365日 0.35 1.0E-7 10.22μSv
ストロンチウム89 0.028Bq/m3 4時間X365日 0.35 3.8E-8 0.54μSv
ストロンチウム90 0.002Bq/m3 4時間X365日 0.35 4.0E-7 0.41μSv
(合計年間被曝線量)

17.61μSv



 時間が短いので当然なのですが、あまり大きな数字にはなりません。
 外遊び時の被曝量の多くは 外部被曝由来になるものと推察されます。

 保育園の運動場のダスト濃度は気になりますが、極端に荒れた状態を想定して出た数字ですから 極端に大きな内部被曝の可能性は少ないでしょう。



2、少年期の場合


 小学校高学年以降になると 課外活動やなんだかんだで外にいる時間が増えてきます。
 大人と同じく 1日8時間 外で激しく運動するケースを考えます。

 呼吸量は これまたちょっと多目ながら「1.12m3/h」を使います。(出処はIAEA-TECDOC-1162

推定汚染濃度 屋外滞在時間X1年 呼吸量(m3/h) 換算係数
(Sv/Bq)
年間被曝量
セシウム134 0.2Bq/m3 8時間X365日 1.12 2.3E-8 15.04μSv
セシウム137 0.2Bq/m3 8時間X365日 1.12 4.2E-8 27.47μSv
ストロンチウム89 0.028Bq/m3 8時間X365日 1.12 9.3E-9 0.85μSv
ストロンチウム90 0.002Bq/m3 8時間X365日 1.12 1.6E-7 1.05μSv
(合計年間被曝量)

44.41μSv



 まあ、野球少年とかサッカー少年が 特別に高い内部被曝をしていることはなさそうです。
 計算条件が「トンネル工事現場並み」の粉塵濃度ですから、ラグビーやサッカーで暴れまわっても 100μSvの大台には乗らないでしょう。
 それに 「 1日8時間の運動」って プロ選手じゃないですからね。


3、ちょっと結論

 ・ 子供でも外運動で 100マイクロシーベルトの内部被曝をすることはなさそう。
 ・ 試算はストロンチウムの存在比率によって大きく動く印象。
 ・ チェルノブイリ並みのストロンチウムを仮定すると、今回の試算の3割り増し程度の数字になる見込み。




土埃の中の放射能(その1) [放射能]

 前回は 土を直接食べてしまうことによる内部被曝量を試算してみました。
 小児でも それほど大きな数字にはならないようなのですが、汚染土壌からの内部被曝は経口摂取だけに留まりません。

 日本原子力学会のスライドでも IAEA-TECDOC-1162でも、一度 地面に落ちた放射能が再浮遊して吸引被曝することが想定されています。
 建築業などの屋外作業者はもとより、体育や課外活動で屋外運動をする機会の多い子供でも 心配な経路です。

 福島県でも高校野球の開幕予定が伝えられる中、柏市でも 屋外運動のリスクは どの程度になるのでしょうか?
 これまでと同じように ちょっと電卓を叩きながら 素人計算にチャレンジしてみましょう。



1、土埃の中の放射能量は?

 電卓を持ち出す前に 疑問になるのが、土埃に乗って どれだけ放射能が飛ぶかです。

 いつも持ち出すIAEA-TECDOC-1162では 再浮遊係数を「1E-6(m-1)」として、この数字を上限であるとみなされる」と述べています。
 (リンク資料の99ページ目です。)

 この係数を使うと 柏市の土壌汚染度(推定・10万ベクレル/m2)では、空気中には1立方メートル当たり 0.1ベクレルの放射性セシウムが含まれる計算になります。

 ここで、この「1E-6(m-1)」という再浮遊係数が どういう状態を意味するのか?
 本当に「上限」といえる安全寄りの数字なのか?
 別な角度から 検討してみましょう。

 「0.1ベクレル/m3」になるためには 空気中にどれだけの土が混じらないといけないのでしょうか。
 土の密度でよく使われるのは 「1.6g/cm3」です。
 セシウムが地表1cmに全て沈着していると仮定すると、土のセシウム密度は「6.25Bq/g」程度のはず。

 これが埃で飛んで「0.1ベクレル/m3」の空気になるには、1立方メートル当たり16mgの土が混じらないといけません。
 この濃度の粉塵量というのは 強風の日の幹線道路沿いとか 住宅の解体現場とかのレベルをはるかに超えていて鉱山の坑道とか トンネル掘削現場でも かなり条件の悪い場所の濃度です。(参考)

 一般的な世界だと、トンネル工事現場の目標値が3mg/m3、酷いと言われる津波被災地の砂埃が1mg/m3前後室内環境基準が0.15mg/m3などなど。
 土の運動場とか、農作業中といっても、日常的に「1立方メートル当たり16mg」の粉塵が舞っているとは どうしても考えにくいのですけどねえ。
 その数字だと 放射能より先に 塵肺の心配をしないといけない水準ですから。

 まあ、とはいえ 安全寄りに計算するには 悪くない係数といえるのでしょうか。
 これから先は、この「1E-6(m-1)」という再浮遊係数を使って 電卓を叩いていきましょう。


2、再浮遊粉塵による被爆(成人の場合)


 柏市の土壌汚染を 放射性セシウムで10万ベクレル/m2と仮定すると、内訳は下の表のようになります。
 ストロンチウムによる汚染は まだ測定されていませんが、セシウムとストロンチウムがお友達であることを考えると完全に無視することは出来ません。

 前回は チェルノブイリを模した割合を仮定していたのですが、今回は 原子力安全保安院のシミュレーションの数字を使っています。
 福島のデータを見る限り 食品暫定基準値の導出に用いられた比率は ちょっと過剰なようですから。


 

 仮想存在比 

 汚染量(仮定) 

セシウム134 1.0 50000Bq/m2
セシウム137 1.0 50000Bq/m2
ストロンチウム89 0.14 7000Bq/m2
ストロンチウム90 0.01 500Bq/m2




 これに先ほどの再浮遊率「1E-6(m-1)」を掛けて 空気中の再浮遊放射能を求めます。
 ただ、吸引摂取の場合も微粒子への放射性物質の濃縮する可能性が指摘されています。
  経口摂取の場合は「係数:2倍」でしたが、吸引被曝では「係数:4」が採用されています。(リンクしたPDFの72ページ目)

 これらを全部掛け合わせると…


 

再浮遊粉塵の濃度(仮定)

濃縮係数を掛けた濃度

セシウム134 0.05Bq/m3 0.2Bq/m3
セシウム137 0.05Bq/m3 0.2Bq/m3
ストロンチウム89 0.007Bq/m3 0.028Bq/m3
ストロンチウム90 0.0005Bq/m3 0.002Bq/m3




 以上が再浮遊した土埃の想定汚染量となるワケです。

 ただ、ちょっと考えてみると この濃度もかなり大きな数字ですよね。
 原発周辺の濃度なみになっていますから…
 やはり再浮遊率が かなり過剰寄り(安全寄り)なのでしょう。

 ここから 預託実効線量への係数を掛け算していきます。
  IAEA-TECDOC-1162表E6の係数には 呼吸量として 軽作業相当の「1.5m3/h」が織り込まれています。
 一般的な 生活条件で 1日8時間を屋外作業する場合を想定してみます。


 

換算係数
[(μSv/h)/(Bq/m3)]

推定汚染濃度
(Bq/m3)

1日の暴露時間X1年

年間被曝線量

セシウム134 3.0E-2 0.2Bq/m3 8時間X365日 17.52μSv
セシウム137 5.9E-2 0.2Bq/m3 8時間X365日 34.46μSv
ストロンチウム89 1.2E-2 0.028Bq/m3 8時間X365日 0.09μSv
ストロンチウム90 2.4E-1 0.002Bq/m3 8時間X365日 1.40μSv

 合計年間被曝線量 

     

53.47μSv




 「53μSv」というのは意外と大きな数字なのですが、算出条件が鉱山並みの粉塵濃度を想定していますから 仕方がないところでしょうか。
 とりあえず、放射線の前に塵肺になりそうな濃度で毎日8時間労働しても 100μSvにはいかない程度という目安はつけられそうです。
 少なくとも 大人の場合は 粉塵吸引で 外部被曝の何倍も被曝してしまう可能性は低いように思います。


3、ちょっと結論

 ・ 鉱山労働並の粉塵濃度で毎日8時間労働すると53.5μSvの内部被曝になる。
 ・ 風の強い幹線道路沿いや津波被災地の粉塵濃度相当で計算すると 13.4μSv程度の被曝と推定される。
 ・ 日常的な外出ではそれほど大きな内部被曝はない見込みだが、風が強い日はマスク着用がベターか。
 ・ 日常の掃除など 砂埃を屋内外に放置しない対策も必要かな。
 ・ ストロンチウムの比がチェルノブイリ並みだともう少し大きな数字になる。
 ・ 早く 関東圏でもストロンチウムの汚染量を計測して欲しいところ。

 次回は 子供についても試算するつもりです。


土の中のストロンチウム [放射能]


 マッキーさんのコメントを読んで、改めて 柏市のストロンチウム濃度が どの程度なのかが気になり始めました。
 セシウムがこれだけあるのにストロンチウムだけ出ないということはないはずなんですけど、量の程度は???

 現在のところ 土壌汚染で調べられているのは 原発敷地内を含んだ福島県内のみ。
 意図的か 不作為からか、その他の都道府県では まったく調べられていないのです。

 公表されている福島県内の実測値は「ストロンチウム/セシウム比」で1/2000以下と非常に小さな数字になっています。
 「放出温度が低かったからストロンチウムが比較的少ない」という説明は 確かに合理的なのですが、実感としては ちょっと少なすぎる気がしないでもありません。

 実測値とは異なりますが 原子力安全保安院のシミュレーションでは「Sr89:Sr90:Cs134:Cs137=0.13:0.01:1.2:1」と推定されています。

 どちらが正しいのかは どこかの研究機関が柏市の土壌を実測してくれるのを待つしかなさそうです。

 ストロンチウムが身近に存在するのは とても嫌なことですが、チェルノブイリより少なそうなのは 僅かなりといえど救いでしょうか。

 いずれ シミュレーションの比を使って土壌直接摂取の計算をやりなおしてみます。



人はどれだけ土を食べてるか(その2) [放射能]

 前回は 大人が汚染土壌を 直接 口にしてしまうことによる内部被曝量を試算してみました。

 でも、「大人」って土遊びもあまりしないし ちゃんと手を洗うし 清潔・不潔の区別がついていますよね。

 逆に 子供は土いじりが大好きで 汚れた手を平気で口に持っていきます。
 手洗いだって うがいだって 怪しいものです。

 というわけで、前回の数字を使って 子供がどれだけ土を食べて被曝するのか 試算していきましょう。


1、子供は土をどれだけ食べてるの

 世間では色々な数字が使われているようですが、ここでは中でも最も安全サイドで「小児は200mg/日」を使うことにします。
 実感としては ちょっと大きすぎる気がするのですが、子供は何をやってるか分かりませんからね。

 汚染度は 前回計算した表をもってきます。

 

1gあたりの汚染量(仮定)

濃縮係数を掛けた汚染量

セシウム134 3.125Bq/g 6.25Bq/g
セシウム137 3.125Bq/g 6.25Bq/g
ストロンチウム89 1.875Bq/g 3.75Bq/g
ストロンチウム90 0.3125Bq/g 0.625Bq/g


 子供は200mgの土を食べている想定ですから、1年間に入ってしまう放射線量は 下の表になります。

土壌からの直接年間摂取量
小児の場合

セシウム134 456.3Bq
セシウム137 456.3Bq
ストロンチウム89 273.8Bq
ストロンチウム90 45.63Bq


 「何歳まで 土を口にしやすいのか?」という疑問は残りますが、まあ分別のつかないお年頃は 一応 「小児扱い」ですかねえ。
 大人でも 習慣的に 子供並の土が入ってしまっている人もいるような気もしますしね。

 子供の摂取線量換算係数は 日本語で良い資料が見当たらないので ココから拝借しています。
 経口摂取の係数はセシウムは9ページ、ストロンチウムは6ページに出ています。

 印刷が悪いうえに 単位が判り難いので 主要部分を抜き出してしまいましょう。
 単位と桁も 前回と同じに揃えてあります。
 セシウムの換算係数が 成人でちょっと違うんですが、引用元が違うためです。

単位[μSv/Bq]  1歳から2歳   2歳から7歳  7歳から12歳 12歳から17歳   成人  
セシウム134 1.6E-2 1.3E-2 1.4E-2 1.9E-2 1.9E-2
セシウム137 1.2E-2 9.6E-3 1.0E-2 1.3E-2 1.3E-2
ストロンチウム89 1.8E-2 8.9E-3 5.8E-3 4.0E-3 2.6E-3
ストロンチウム90 7.3E-2 4.7E-2 6.0E-2 8.0E-2 2.8E-2


 子供ほど ストロンチウムの換算係数が大きく、某学会のスライドのように セシウムだけで計算するのは不安です。



2、子供は土をどれだけ食べてるの(1歳~2歳)

 この年齢は外遊びが大好きで もっとも変な物を口にしやすいお年頃。
 土だろうが 石だろうが 平気で食べようとしますよね。

 換算係数もストロンチウムが大きくなっています。

 先ほどの土壌摂取量と係数を掛け合わせたのが 下になります。

土壌からの直接年間摂取量

換算係数[μSv/Bq]

年間被曝量

セシウム134 456.3Bq 1.6E-2  7.30μSv
セシウム137 456.3Bq 1.2E-2 5.48μSv
ストロンチウム89 273.8Bq 1.8E-2 4.93μSv
ストロンチウム90 45.63Bq 7.3E-2 3.33μSv

(年間合計被曝量)

21.04μSv


 計算してみると思ったほどの数字にはならないのですが、小さいお子さんだけにやはり対策は考えてしまいますよね。
 特に 減らそうと思えば 減らせそうな被爆ですから。



3、少年は土をどれだけ食べてるの(12歳~17歳)

 表を順番に見ていくと、ストロンチウムの係数が大きくなる思春期も気になるところ。
 分別がついても良さそうなお年頃ですが、買い食いや地べた座りが大好きだったりしますよね。

土壌からの直接年間摂取量

換算係数[μSv/Bq]

年間被曝量

セシウム134 456.3Bq 1.9E-2  8.67μSv
セシウム137 456.3Bq 1.3E-2 5.93μSv
ストロンチウム89 273.8Bq 4.0E-3 1.10μSv
ストロンチウム90 45.63Bq 8.0E-2 3.65μSv

(年間合計被曝量)

19.35μSv


 こちらも 大人より影響が出そうです。
 このお年頃の問題は どんなに話をしても、大人の言うことを聞いてくれなさそうなことでしょうか。



4、ちょっと まとめ

 最初の土壌の摂取量が安全サイドと思われる上に、幾つか数字が大きくなる仮定を置いています。
 その上でも 土が直接口に入ってしまう被曝は mSvの桁にはならない見込みです。
 ただ、対策が容易な経路ですから 特に小さなお子様は対策があってよいように思います。

 また、ストロンチウムの存在比はチェルノブイリを想定して設定されています。
 今回の事故では もう少し小さな値になる可能性がありますが、某学会のスライドみたいに「完全無視」はいただけません。



人はどれだけ土を食べてるか(その1) [放射能]


 まず、簡単に計算できそうなのが「汚染土壌の直接経口摂取」でしょうか。

 土を意図的に食べることはなくても、子供が外遊びをしていれば口に入るでしょうし 調理の過程で野菜から紛れ込むことも考えられます。
 柏市で1年暮らすと どのくらいの被曝になるのでしょうか。


1、土をどれだけ食べてるの

 まず最初に考えなければいけないのは、人はどれだけの土を一日に食べているのかということです。

 幾つか資料をあたってみると、あるところでは「小児200mg/日、成人 100mg/日」という数字に行き当たります。
 別な場所では「小児 20mg/h」が使われています

 改めて 「200mgの土を口にしてます」と言われると、私もちょっと驚いてしまいました。
 が しかし、土の密度は乾燥状態で「1.6g/cm3」ですから 200mgだと5mm角の立方体の体積でしかありません。
 そして、小児用の粉末飲み薬では一回分の量に満たない位の量ですから 見方を変えると 違和感がなくなります。
 (それでも ちょっと多い気はするんですけど…)

 とりあえず、安全サイドの数字を使って「子供は1日200mg、大人は1日100mg」土を食べてる前提で計算を始めてみましょう。



2、土壌の汚染度を推定してみよう

 以前から使っているように 柏市の汚染度は セシウム合計で10万ベクレル/m2と仮定しておきます。
 セシウム134が5万ベクレル/m2、セシウム137も等比率で5万ベクレル/m2の内訳です。

 このまま計算すれば簡単なのですが、10万ベクレルのセシウムがあって ストロンチウムが無いとは考えられません。
 ストロンチウムの量は福島県でしか測られていませんが、ストロンチウムを無視して計算するのは「安全サイド」とは言えません。
 食品の暫定基準値でも セシウムがあればストロンチウムも一定の比率で存在する前提で導出されています。

 柏市の実際の比率は不明ながら食品安全委員会の使った比を使って計算することにします。

 

存在比

汚染量(仮定)

セシウム134 1.0 5Bq/cm2
セシウム137 1.0 5Bq/cm2
ストロンチウム89 0.6 3Bq/cm2
ストロンチウム90 0.1 0.5Bq/cm2



3、重さあたりの放射能を求めてみよう

 ここから 土壌の重さあたりの汚染度を求めていきます。

 日本原子力学会のスライドでは 汚染が地表から5cmの深さまで均等に広がる前提に立っていますが あまり保守的とは言えません。
 ここでは より安全サイドの数字を狙って「全ての汚染が地表1cmに集中している」と仮定しておきます。
 すると 柏市の土壌の汚染度は、セシウム134で「5Bq÷1.6=3.125Bq/g」
 (今回の計算だと ここがちょっと資料不足で弱い気がしています)

 更に 微粒子への放射性物質の濃縮を想定して「係数:2倍」を掛けておきます。(リンクしたPDFの72ページ目)

 出来上がった数字は した表の通りです。

 

1gあたりの汚染量(仮定)

濃縮係数を掛けた汚染量

セシウム134 3.125Bq/g 6.25Bq/g
セシウム137 3.125Bq/g 6.25Bq/g
ストロンチウム89 1.875Bq/g 3.75Bq/g
ストロンチウム90 0.3125Bq/g 0.625Bq/g



4、内部被曝量の試算(成人の場合)

 ここから実際の内部被曝量を計算してみます。

 大人が 一日に直接口にする土壌の量は100mg、1年間だと36.5gの土を食べてる計算です。

 上の表の汚染量6.25Bq/gを掛けると、年間で セシウム134と137を 228.1ベクレル、ストロンチウム89を136.9ベクレル、ストロンチウム90を22.8ベクレル摂取することになります。

 これに摂取線量換算係数を掛けると…

土壌からの直接年間摂取量

換算係数[μSv/Bq]

年間被曝量

セシウム134 228.1Bq 1.9E-2  4.33μSv
セシウム137 228.1Bq 1.4E-2 3.19μSv
ストロンチウム89 136.9Bq 2.6E-3 0.36μSv
ストロンチウム90 22.81Bq 2.8E-2 0.64μSv

(合計被曝量)

8.52μSv


 大人の場合は 直接土を食べることによる内部被曝量は それほど大きくならなさそうです。


 でも、土を口にして問題になるのは 大人より子供の方。
 幼児や少年だと ストロンチウムの係数も大きくなります。

 子供だと どのくらいの被曝になるのか 次回に計算してみることにします。

(つづく)


じゃあ 内部被曝はどうなるの [放射能]

 前回前々回で ホットスポット柏の外部被曝量をテキトーに予想をしてみました。
 ただ、それより もっと心配なのは内部被曝の方でしょうか。
 これだけ食品流通の発達した日本では、北関東に限らず 内部被曝は全国どこでも悩みは尽きないでしょう。

 内部被曝の経路は 幾つか言われておりますが…

1、食べ物や飲料水から入る経口被曝
2、汚染土壌の直接経口摂取
3、土埃など再浮遊粉塵による吸入被曝
4、事故直後の放射能プルームによる吸入被曝


 事故初期、特に3月15日と16日なら原発から直接飛んできたプルームの吸入が大問題だったのですが、今は拍で気になるレベルの放出はない様子。
 これからの1年では 1番から3番が問題になりそうです。

 では、順番に どのくらい被曝しそうなのかを 勝手に考えてみることにします。

(つづく)

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